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 「赤いシビック、赤いドラゴン、稚内―サハリンハイウェイ」
   

2003・9・26 午前4時50分 北海道 日高支庁・静内 
                   藤谷源太・春子夫妻/寝室
 ゴゴゴゴゴ、ぐらぐらぐらぐらぐら。かしゃん、ぐわん、どどどどどバリバリ。
「起きろーーーっ、地震だ、でかいぞ!! おいっ、気をしっかり持て! 春子!」
 ――ずずーーーーん、ガタガタどごごごごごごゴゴゴゴごろがらがらがらがら。
「気はしっかり持ってるけど、そっちガラス割れて、これ電気もつかんさ、動けないっしょ。」
「ええいちくしょう、非常の持ち出し袋は?」
「!!!・・・納屋の中!・・・・・・ごめんなさい。」
「泣くなッ! 命は助かったさ。夜明けを待とう。・・そうじゃ、携帯を貸せ、ほれっ、お前のも。・・靴下を重ねばきして、こいつで足元を照らして逃げるんじゃ!」
   

10・11 午後6時47分 稚内―サハリン国際ハイウェイ
  藤谷祐香・岡本純/赤いシビックの車内 
「逆なでって?」
「だから逆なでやん。」   
「エロいことは全部逆なでに思うの?」
「ちゃーうて。やから、携帯に勝手に送って来よるエロ画像やろ? あれは不自然な表現やんか、でも、もっとさ、だって、誰かて女と男から産まれたわけやん? その重みが全く感じられへんやん?」
「ねータバコとって。」
「車内禁煙。」
「窓、全開にするさ。」
「・・・おまえ、道産子のくせに。・・いまは宗谷海峡の真上やろっ! 時速百キロで。」
  (シュパッ。 ・・・・ふうう〜―っ。)
「・・・放り出す・・。ニシンの餌になってもらおか。」
「ジュンってエロビデ見ないの?」
「アパートにビデオデッキあれへん。」
「や、意味違くって。」
「・・・俺には、恋愛もSEXもすげー重くて大事なことやから、いや、っつうか、その、エロいグラビアとかて、俺には、これはリアルの女性ではない、代わりのものです、てか・・、や、興味はあるに決まってんじゃん、あるけど、・・・見ると悲しゅうなるよ、余計に。」
「ぷぷっ、ジュンは純ださーー。」
「ジュンは純なんやろか。オクテなだけやで多分。」
「あのね、ポルノ出る人たちはね、それでお金もらってるから、だから、そんな、生命の源が、なんて言っても意味がないのね。」
「んんん・・・、あのな、俺の恋愛は・・なんちゅうか、俺にない力や魅力を持っとる女を尊敬して、それが基本にあって、その上で、うん・・、そいつのヨコで寝られたら、それが一番ジンとくることやろな。」
「じゃ、好き、とか、欲しい、とか言う代わりに、尊敬してる、って言うの?」
「ん、まぁ、目ぇウルウルさせながら、あなたを尊敬してますぅて俺が言うたら、まあ惚れとんのかもな。 ・・・・・あれっ、えっ? ユーカ、あれ雲かな、龍か。」
「龍? うろこ雲のこと? どっちさ?」
「や、真上っつうか、そっち。あれ。」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・ どろどろどろボボボボボボボ。
「あれって・・・。 ・・・・・。 ・・・・・・・ジュン、車とめてっ。」


   13年前――、1989・10・11 静内
6歳の祐香・友達と/祖父・藤谷源太の畑にて
「ひめいが聞こえる。2組の女子か。なんだよ・・・、ムカデ? 見せろ。とく大のまっかなのが2ひきか。まかせろ、オレがつぶしてやる。・・・ このっ!」
グシャ
「おーし、もう一匹っ!」    

「やめなよッ。」
「おっ、なんだ、ユーカ、どけよ。このオテンバっ。」
「ここはおじいちゃんの畑よ。ムカデもいて、それではじめていい土ができるって、おじいちゃんが言ってたさ。」
「なんだよ、気もちわるくねえのかよッ?!」

「おおーーーーいいい!! 子供たちっ! 散水機を動かすぞーーッ!」
「ほらユーカ、濡れるぞッ、いつまでムクレてんだよっ!」
「あとですぐいくっ。」
プシューーーッ。しゃあーーーっしゃっしゃっしゃっしゃっしゃっ・・・・

「みんなにきらわれるりゆうなんてないのにね、ムカデさん。おうちへおかえり。土をかけてあげるさ。」

しゃっしゃっしゃっしゃっしゃっしゃっしゃーっしゃっしゃ・・・・・・

   
   1669年 静内(当時のシブチャリ)
                  アイヌ軍の戦士・妻と/陣地の天幕にて

「和人のだまし討ちでシャクシャインさまが殺された。アイヌ軍は最後の出陣をする。妻よ。真紅のムカデの入れ墨のわが妻よ。そなたは一足先に、黄泉の国で待っていてくれ。俺も、仲間も、すぐに後を追う。・・妻よ、済まぬ、しばしの別れだ!」 
バサッ!

「嗚呼。我等は、死なんが為に、松前藩よ、貴様等に最後の戦を挑む。出発は明け方、卯の刻!」


   B.C.202 中国 安徽省・垓下の城。
                   項羽・虞美人と。 
「おのれ、味方の周殷将軍が我等を裏切ったのか。四面楚歌!!この項羽を天は見放したもうたか! 我が心の妻よ、・・・あの世で結ばれんことを。
 力、山を抜き 騅ゆかず。騅ゆかざるを如何すべき 虞や虞や汝を如何せん
虞よ、済まぬ!!」
 バサッ!

「劉邦! 天下は貴様のものだ。無念。我が軍は城を落ちる。脱出は卯の刻!!」


   2003・9・26 卯の刻・午前6時8分 静内
               藤谷源太・春子夫妻/避難して畑にいる。   
ゴゴゴゴゴ、ぐらぐらぐらぐらぐら。かしゃん、ぐわん、どどどどどバリバリ。
「余震だーーーっ!」
ぴしぴしっ、ばあーーーーーーん、・・・ブシュワーーーーーーーーーーーーッ。
「散水機のパイプが破裂したさ!! あああんたッ、元栓が ・・土砂に埋まった・・・早く! 非常用のバルブ閉めて!!」
がくん、ズズズズズズズッ、ズズズッ、ギュウウウウーーーーー。
「ふうっ。送り水はこれで止めた、春子。」
「ねえ・・あんた、風・・ないのになんで、落ち葉いっぱい舞ってんだろねえ?」
 しゃーーーーーっ、しゃっしゃっしゃピシャーーーーーーーーッ。
「どうでもいい。」

 プップップップップーーーーッ、プップーーーーッ!
「あんたっ! お隣さんよ。農協で集まって地震のこと話すって!!」
「オッケイ、カバン取ってくる。春子、ライト貸せ!」
 カチッ、ピカーーーーーッ・・・
「うえっ・・・・なんじゃ? ・・ひゃあ、春子! ムカデ、赤い・・水柱に乗って・・こりゃ畑じゅうのムカデどもが宙を舞っとる!」
     10・11 午後6時53分 国際ハイウェイ
            灰色の渦巻き雲の中、真っ赤な龍が空一面にくねる。 藤谷祐香・純と/路肩に停めたシビックの中
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・ どろどろどろボボボボボボボ。
 ぐぐグオーーーーーッ、どおおおおおおおおおおおどどゴゴゴゴゴゴ。
「? ユーカ、目ぇ、目んとこ、どうした? 血? なに? 血みたいな涙?」

「・・・我は・・龍に化身せし・・・アミインネキキリのカムイなり。」
 ドドドぐおおおおおおおおおうおうおう、ぐわぎゃああアアアアゴオオオオウ。
「この地、二度にわたり揺れしはシリシムエと云いて悪神の怒りなり。我その声を聞きて目覚め天に昇りぬ。」
ぐるるるるる、ぐごおおおグオオオオオオオおおおお・・・
「アホ、ユーカ何しとん、外へ出るな! てか何で日本語知っとんアイツ?」
 
「ユーカと申すメノコ、汝をカムイの世・カンナモシリに連れに参り候。」
 
ごごおおわああーーーー、ピカッッッ、シュワワワアアーーーーおおおおん!
「み・・道が消えた! うわあ、うしろも!! ハイウェイがっ、ただの海になった・・」
「声・・・、心に聞こえて来るんださ・・・。テレパシーみたくさ。」
「・・・・・・、ユーカ、俺ら、殺されるんかな? ・・・・・、・・・!!!」
 ガチャッ!
「あ、ジュン! どこいくさ?」
「・・・あのアホのハッタリめを追い返す。」 
ぐるるるるる・・・・・・
「おい、ワレゃ! 何デタラメこいとんお前! 神様がナニ誘拐しとん、えぁ? あのな、ユーカはな、俺も居てくれんと困るねん。 オテンバやけど心のむっちゃ優しいやっちゃ。お前にゃやれん。 ドラゴンかゴンドラか知らんがおととい来いやボケ!」

「我はこのメノコの故郷シブチャリより天の使いとして・・カムイの怒り静めんがため・・」
「使い? チッ! お前礼儀なさすぎやコラ、脅かして、高速道路ブッ壊して、それが使いの態度かドアホ!」
 ぐぶぶうううううう、ぎゅうううーーーーーーっ。

「・・なんや、下がって来よった・・・あ、ユーカ、行くなっ! 前も後ろも海や!」
 ぐるるる、ぐるるる、グウグググうううう・・・・
                ドラゴン、ふたりの目の高さまで降りる。

「・・・・ジュン、もういいさ、こいつ、なんか、あたしが助けたらしいさ。」
「はぁ?」
「我はアイヌの守護霊なり。ムカデの姿にてシブチャリの畑に潜み、かつて妻を殺されし所を、畑の主の孫娘に助けられたり。この者、命を敬う心なんたるかを知りたるにて、謹んでカムイの国へお連れ致したい。シリシムエの怒りを静め、この地を守るに、このメノコをメノカムイとせん。」

「ユーカ、その血の涙とまらんのんか、気色悪い!・・・化けたムカデになんぞダマされなや! なんや、ユーカ、おい・・・・・。 ・・うわ、そんなヤツに抱きつくな! 戻れ!ユーーーーーカ!!!! おい・・・・。 ああ・・。あぁ、ハイウェイが・・元に戻った!!! ・・・・ドラゴン・・・・」
「カンナモシリはこのメノコをカムイとして、尊び敬わん。」

「ごめんさジュン。ココロん中に声響いとるさ。あたし、空の上へ行かなくちゃ。」
ごおごおごおおおおおおおおウオウオウオウオウオウオ・・・・
「ユーーーカ!!!! ・・・俺・・お前・・尊敬・・しとった・・。」
「ぷぷっ、目ぇウルウルしとるさ。・・ジュンあたしを守ろうとした?」

「・・・・、好きやってん。お前のこと・・なんやぁ、勝手にカミサマのカミサンになりよってお前。」
「ごめんさ。ぷぷっ。チェリーボーイあたしに取っといてくれたのにごめんさ。」
「どアホ・・・そない、ワザと自分を悪者にするもんやない。 お前が・・これから・・出逢う誰かを・・・幸せにしてやりぃ。」

ごおごおごおおおおおおおおウオウオウオウオウオウオ・・・・ンンンン
「ユーカ・・・カンナモシリってauからメール届くんか? neドットjpで。」
「わかんない〜。 じゃhotmailなら来るかなぁ? これ。インターンの名刺の余ったやつ。ほらここ、ユーカ・ラヴス・ユー、アットマーク、ホットメール、ドットコム。全部小文字で。」

「ラヴス・ユー、・・・ユーて誰やねん。」
 グゴワワアアアアーーーーーっ、シュルシュルシュルシュるるるるるる・・・・・
              ドラゴン、ユーカをツノにつかまらせ空へ消える。

「ユーて・・、ラヴス・ユーのユーって誰やねーーーん! 誰のこっちゃあーーッ、誰をラヴス・ユーなんやぁーーー、ユーカ!!」

「メノコはメノカムイになる。この地は永く安からん。
イッケラリー、ホーイホイ。イッケラリー、ホーイホイ・・・。」

「ユーって誰なんやワレ、コラァ! ユーカ! ぐすっ。 ユーーーーーーカーーー!」

「・・・イッケラリーーーー、ホーーーーーーーイ、ホイ。」


 おれはハイウェイの上に一人残された。
 セルフサーヴィスの無人スタンドでガソリンを入れ、水温計の針を確かめた。
 旅を続けなくちゃ。
 この場所を抜けなければ、まだ春は来ないから。